どこまでも続く木道と、雲ひとつない青い空。絶好のロケーションの元に広がる抜けた湿原の景色と池塘の水鏡、ああ、これが尾瀬だ、見たかった尾瀬だ。二日目は2年ぶりくらいの晴れた尾瀬の絶景に、一歩ごとに心踊らせながら帰路につきました。
前日、早々に21:00には眠りにつき、翌朝は4:00頃には目が覚めました。基本的に山小屋の朝は早いです。早朝に立つ方々は、暗いうちから起きて準備して日が昇ると同時に山小屋出たりするし、日の出の撮影目的なら日が出る前に立つのが山時間ってもんで。
我々はゆっくり5:30起床予定でしたが、周囲が騒がしくて5:00には起きてしまいました。普通で考えたら5:00起床は早いですが、山小屋ではこれでも遅い方。朝食が6:00からだったから、起きてすぐ朝ごはん食べて、それから顔洗って支度する予定。
窓の外は青空で雲ひとつ無し。予報通りなら今日は一日、気温が高く安定した晴天になりそうで期待がふくらみます。
朝ごはん前に、一度表へ出てみました。5:30頃の外は、まだ小屋前の湿原が日影の中。燧ヶ岳から朝日が昇るため、朝日が完全に出ないと日陰が無くならない様子。……あれ、木道、これは白く凍っている…!?
昨日は午後から強風で、夕方から冷え込むなあと思っていたら、小屋前の水たまりには霜が降りてました。うすーーく氷も張っている気が。………もう明後日に6月になろうという時期に霜が降りる、それが山ってもんか。あとで調べたら最低気温が-1.7℃まで下がったようで。そりゃ凍るわ。
凍ってる木道を、小屋の玄関に備え付けのスリッパで朝ごはんまで散歩。歩き方に気を付けないとほんとにツルんと滑るので注意。そうやっておっかなびっくり歩いてるうちに、やっと燧ヶ岳から太陽が全部顔を出した。
朝日を浴びてキラキラ光る霜の降りた木道。
水芭蕉にも霜が降りて、うぶ毛が生えたようになっている。触るとカチコチになってました。
小屋前の湿原にも朝日があたり、日陰が無くなりました。霜もすぐに溶けるかな。天気予報が今日は晴れと言ってたけど、ほんとうに雲ひとつない晴天に気持ちが盛り上がります。尾瀬には今まで4回来たけど、ここまでいい天気はなかったよ。この晴天の下の今日の歩きが楽しみです。
6:00より朝ごはん。お茶、ごはん、お味噌汁、サバ味噌にフキの山椒漬けと漬物もう一種、切干大根と人参のマヨネーズ和えと卵焼き、花豆の甘く煮たもの、味のり、抹茶プリン。
前日の夕飯が早いため、朝もお腹が空いてましたが、今日はご飯のおかわりは我慢。着いた時に今日のお昼のお弁当を頼んであるので、湿原内でお弁当を食べたいから朝は軽くすませて早くお腹を空かせるのだ。
お弁当は食堂入口で配るので名前を言って受け取ります。
まだあたたかいお弁当の包を受け取り、部屋でさっそく中身を見てみます。弥四郎小屋の名前の入った包み紙でくるまれた中には、ごま塩と青菜のまぶされた、塩強めのおにぎり二つ(具は両方梅干)と、味がうつらないように紙にくるまれたお稲荷さんひとつ、魚肉ソーセージ、しその葉にくるまれた味噌巻。
おにぎりの形が崩れないように、ザックの中の荷物の一番上にそっと乗せます。
顔を洗い歯を磨いてメイクし、布団を畳んで部屋を片付けて、着替えて荷物をパッキングして出発します。7:30には表に出ましたが、大体の方々は7:00前には出ていて、小屋の中はがらんとしてました。チエックアウト8:00だからけして遅くはないけど、何度も言うように山時間は早め早めの行動が基本だもんな。
今日は山ノ鼻から鳩待峠へ戻るだけなので、そんなに早く行かなくても大丈夫という行動の余裕と、天気が崩れない予報だからの気象面での余裕もありゆっくりモード。これが午後から下り坂とかの天気予報なら我々も前倒しでセカセカ動きます。
とりあえず支度して外には出たけど(山小屋は前払いなので先に支払いは済んでいる)、今回の尾瀬でやりたいことがもうひとつ。
小屋前に湧く弥四郎清水は無料で汲み放題なので、今日の行動用に空になったペットボトル二本に冷たい清水を入れます。
そして、この清水で朝のコーヒーを入れて一服してから出立したいというのが、今回のやりたいことのひとつ。
ケトルに弥四郎清水を入れてシングルバーナーで湯を沸かし、コーヒーを淹れます。コーヒーのいい匂いが目を覚ませてくれました。濃い目で少なめに入れて、 朝の湿原と至仏山を眺めながらの一服は至福でした。
コーヒーを飲んで片付けて8:00過ぎに山ノ鼻へ向けて歩き始めます。本当に、雲一つないピーカンの空。嬉しい、こんな晴れた空の下を歩けるなんて。
ぐるりと360℃、見渡しても誰もいない、空と湿原と木々と山だけの景色。
ぼこんと山頂が出っ張ってるのは景鶴山(ケイズルサン)、標高2004m。2000m超えの高山だけど低くみえるのは尾瀬自体が1400mの標高にあるから。
ちなみに画面左下の樹林帯に見える屋根は東電小屋。夏場は木々でこの場所から東電小屋は見えないけど、この時期なら見えるのか。
見晴の弥四郎小屋を振り返る。こちら側も雲一つない晴天。
弥四郎小屋、お世話になりました。また絶対来るよ。名残惜しいけど帰路に付きます。この日は風も強くなくて良く晴れて、あまりのいい天気に帰りたくなくなりました。もう一泊したい、ここで、出来ればしばらく過ごしたいって気持ちが湧き上がってくる、それくらい素晴らしい絶好のコンデションの尾瀬でした。
しばらく歩くと、竜宮小屋の裏手の川を渡る場所で福島県から群馬県に入ります。
昨日通った時にこのあたりだけニンニク臭いなーと思って、尾瀬保護団体のHPで調べたら、このあたりギョウジャニンニクの群生地らしく。
いっぱい生えてる緑の濃い草がギョウジャニンニク。生えてるだけでこんだけ臭うなら、切ったり刻んだりしたらかなりのニンニク臭になるんだろうな。それとも鹿などに食べられた切り口が臭うんだろうか。
こんなに特徴的な匂いがしても、山菜は誤食があるのが怖い。
ギョウジャニンニクの群生を過ぎると、竜宮小屋の裏側が見えてくる。公衆トイレがこの先は山ノ鼻まで無いのでここで用は足しておきます。
昨日、トイレのそばにニリンソウの群生があったので見てみたら、今朝は花がみんな閉じてる。ニリンソウ、開いたり閉じたりするのか。知らなかったわ。
可愛く下を向いて閉じてる花々。
これから日が昇るにつれて、花が上を向いて咲くのかな。それとも昨夜は寒かったから下を向いて閉じたのだろうか。
竜宮十字路に到着。今回はここで右に曲がり、ヨッピ吊り橋を目指します。この道はまだ歩いたことないから、どんな景色が広がるのか楽しみ。
コース取りが色々出来る尾瀬、まだ歩いてない場所を歩く楽しみも、一度歩いた場所を季節を変えて歩き直しする楽しみも味わえます、尾瀬の絶景の感動と共に。
竜宮からヨッピ吊り橋へ。地図上だと、ピンクの丸した竜宮から上左にむけて歩く感じ。そこから左下の牛首分岐へ向かい、そのまま一本道を山ノ鼻へ戻ります。
ヨッピ吊り橋へ向かう道はわりと乾いた湿原で、タテヤマリンドウの小さな青い花があちこちに咲いてました。本当に小さい、直径2センチくらいのリンドウです。
30分くらいでヨッピ吊り橋のたもとに着。ここからは左へ、牛首を目指します。
右手のヨッピ川(樹林帯)沿いに歩くこの道は、昨日竜宮まで歩いた道よりいつもすこし人が少ない気がします。その上、今はわりかし早い時間(朝9:00)のため、日帰りツアー客がまだ湿原へ降りてきてないので、人気の少ない静かな尾瀬を堪能できます。
しばらく歩くと、池塘がたくさん連なる、燧ヶ岳ビューポイントに到着。
雲ひとつない青空が池塘に映り込み、山々の新緑が青い水面に映える。
もうしばらくすると、池塘にはヒツジグサなどの水草が浮くけど、今はまだ何も浮草が無いので、シンプルに水と山の景色が楽しめます。
睡蓮の一種のヒツジグサやその花も、それはそれで池塘の楽しみのひとつだけどね。
湿原内に流れる川は、どれも雪解け水で増水してあふれてました。この川も、本来なら水の中に見える丸太が並ぶあたりが川面のはず。
せっかく川辺に咲いた水芭蕉が、ここでも水没している。でも、これも自然の摂理で、この雪解けの増水があるから実ったり受粉したり、芽が出たりする植物もあるのだろう。
牛首分岐に合流し、さらに山ノ鼻方面へ。雪解け水で増水した、いつもより池塘と水分の多い湿原が新鮮。
この先、昨日通った逆さ燧のポイントでお弁当を食べました。時間は10:30頃だから随分早い昼食でしたが、考えたら6時に朝ごはん食べてるから5時間も経てばお腹空くよねっていう。
美しい風景をみながら食べるおにぎりはすごく美味しくて、ある程度の量があるおにぎりでしたがペロリと15分で食べてしまいました。とても美味しかったです、弥四郎小屋のお弁当。
増水し、増えた池塘からはカエルの鳴き声がします。池塘を覗くと動く影がたくさん。
イモリです。水の中には小さなオタマジャクシと、トカゲくらいのサイズの両生類、イモリがたくさん泳いでます。
後でビジターセンターで調べたら アカハライモリというそうで。お腹側が赤いそうです。たしかにしっぽの下側あたりに赤みが。
ビジターセンターに立ち寄り、トイレをすませて、11:30過ぎに鳩待峠への登りへと向かいます。少し歩いてから山ノ鼻を振り返る。木立から見えるビジターセンターの屋根に心で別れを告げます。さよなら尾瀬、また来るよ、今回は晴れた空とたくさんの絶景をありがとう!水芭蕉時期も綺麗でよかったよ!
ビジターセンターから5分、川上川を渡る橋の上から。いつもこの橋を渡ると山ノ鼻がもうすぐという目安。帰るときはこれを渡ると湿原から遠のく感じで寂しい。
テンマ沢手前の木道が雪に埋もれたポイント。踏み抜きに注意して木道があるだろう場所を歩きます。左手の山の斜面はまだまだ雪に覆われています。
真っ青な空と残雪。まだ山は冬と春の境目なんだな。これくらいの残雪なら、気をつけて歩けばなんてことはなく渡れます。
帰りの木道から沢と残雪を望みます。もうすぐ鳩待峠。後ろ髪を引かれる思いで鳩待峠に登ったのが12:50分でした。本当に、もっと尾瀬に居たかった……。
今回の尾瀬は水芭蕉の美しさや天気の良さもあいまって本当に楽園か天国かと思ったよ……標高1400mにある天上の楽園でした。
後ろ髪引かれる気持ちを切り替えるためと登りのご褒美に、まず花豆ソフトクリームを食べます。甘い文明の幸せを堪能し、それから家や会社へのお土産を買い、トイレを済ませてマイクロバスに乗ったのが13:15くらい。戸倉第一駐車場に着いたのが13:40くらいでした。
車に戻り、支度をして出発。帰り道に片品村の道の駅に立ち寄り、わらびや地ビールをお土産に購入、それから沼田インターへ向かう120号沿いにあるわたすげの湯に立ち寄り、二日の汚れを石鹸で洗い流し、髪を洗います。
尾瀬の山小屋に泊り、帰り道に立ち寄り湯をすると、普段何気なく使っている石鹸やシャンプーのありがたみがすごく身に染みます。日常生活の何気ないことのありがたみ、普段は感じないそれが、山に行って山小屋泊すると途端に切実に感じられるのも山小屋泊の楽しさのひとつかも知れない。
日常から切り離された非日常。その一泊を過ごすことで日々流されている日常の大切さや便利さも見直せて、美しい風景、薫る風、鳥の鳴き声やカエルの声、満天の星空などに心癒されてリフレッシュ。よく歩くことで体や胃腸の調子も良くなり、食事が旨くて消化も良くなる。
それでまた下界へ戻って日々を頑張って働いて――尾瀬にはそんな、精神と体のメンテナンスをする場所のような、癒しの場所のようなイメージもあります。断食道場のような、あえて『何も無い』不便な場所で過ごすことにより、日常を見直せるような……。
そんな尾瀬、是非一泊で訪れて見てください。日帰りでも可能な場所ですが、鳩待峠からの降りと登りを一日でこなすより、一泊して足の疲れを癒してから翌日登る方が辛くないし、夕日や朝日、夜の星空などは泊まらないと見れない景色です。
見晴の山小屋はだいたいが一泊二食で9000円。素泊まりで6000円くらい。お弁当は800円なのでひとり9800円です。これからなら6月後半のワタスゲの白くて丸い綿ぼうし狙いか、7月中旬のニッコウキスゲの黄色の花狙いもステキ。自分も行けるなら日帰りでも、何度でも行きたいわ。
何もない贅沢。本質での豊かさ。人工物の無い、自然だけに囲まれているとそういうものに気づかされる気がします。尾瀬の山小屋泊、ほんとうにオススメです。